乳母とは実母の代わりに授乳・子育てをする役割の女性

乳母のイラスト 用語集
乳母のイラスト

乳母(うば)とは

現代では粉ミルクやベビーフードといった赤ちゃん用品が手軽に手に入りますが、古代や中世の時代には当然そんな便利な物はありません。そのため特に生まれて間もない赤ちゃんは母乳でのみ育てることになりますが、体質によっては母乳が少ない、または全く出ない場合もあります。ですが赤ちゃんの成長に母乳がないことは悪影響が大きいということで、皇族や貴族武士や裕福な商家は子供をより確実に育てるため、乳母を雇い実母に代わって授乳させるという方法をとっています。赤ちゃんが乳離れをした段階でお役御免となることも多かったのですが、そのまま代理母として子育てまでするケースもあったようです。

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神話の時代から続く乳母の歴史

日本では古代の時代から乳母がいたようで、神話の時代を記した「日本書紀」にもしっかり登場しています。そして奈良時代以降の律令制下では乳母が制度にも登場、なんと双子や三つ子が生まれた家には朝廷から乳母が支給されるという、なかなか気の利いた法律があったようです。母親1人では幾人もの子供に母乳を与えきれないからということなのでしょうが、国家の法律で決められていたことにちょっとビックリしてしまいます。

平安時代頃からは子育てをする人のバリエーションが増えており、授乳だけでなく養育にもスポットライトが当たるようになりました。また段々と「高貴な女性は育児をしないもの」という風潮が出来ていくと、育児を他人に丸投げするという行為が割と一般化しています。もちろん全ての母親がそうした訳ではないのでしょうが、平安時代の長編物語・源氏物語の主人公、光源氏も乳母に育てられたという設定になっています。

平安貴族のイラスト

最強の乳母・春日局(かすがのつぼね)

乳母というどちらかと言えば目立たない立場でありながら、江戸幕府の政策に大きな影響を及ぼした人物こそが春日局です。3代将軍・徳川家光の乳母になった春日局は、家光の実母である「江与」の信頼を受け、将軍の家族が過ごす場所である「大奥」を取り仕切りました。後に「江与」が亡くなると大奥という家族のスペースに「法度(決まりごと)」を制定、上下関係や食事の作法まで徹底的に整備し、大奥に住まう人々にとってガチガチの生活様式を作り上げています。また彼女の権力は大奥だけに留まらず、将軍家光の権力を背景に政治にまで口を出し、幕府の高級官僚ですら言い負かすという凄まじい権力を手にしています。

春日局の銅像
東京都文京区礫川公園にある春日局の銅像

そして春日局の権力は幕府内に留まることなく、今度は朝廷での官位をターゲットにした活動を展開しています。かなり強引な手段で三条西家という公家の娘という立場を手に入れ、当時の天皇である後水尾天皇に拝謁すると、従三位という公卿に列する位階を受けることに成功しています。

ですが春日局はこれでは物足らなかったようで、3年後にもう一度上洛して天皇に拝謁、今度は一つ高い従二位の位階を見事にゲットしています。武家の女性が従二位以上の位階を受けた事例は数例しかなく、平清盛の正室・平時子や源頼朝の正室・北条政子など、歴史上の偉大な女性と肩を並べたことになります。平時子や北条政子は権力者の妻として位階を受けていますが、これに対して春日局は将軍の乳母という立ち位置でしかありません。このことは春日局がいかに凄い人物だったかを表してもいますが、同時に乳母という立場がどれほど強い影響力があったかも表している気がします。

乳兄弟(ちきょうだい)という特別な関係

乳母に育てられた人にとって、その乳母の実の子供は乳兄弟という間柄になり、特別に親密な関係で結ばれるケースが多くありました。同い年で赤ちゃんの頃から一緒に育つというのは、年の差がある兄弟以上に親密になるのもなんとなく分かる気がします。有名な戦国大名の1人・織田信長は家臣の池田恒興と乳兄弟であり、池田恒興は桶狭間の戦いから信長の仇討ち合戦となる山崎の戦いまで側近として活躍を続けています。

鎌倉時代に日本初の武家政権を樹立した源頼朝は、乳母・比企尼の関係で数多くの御家人を従えています。比企尼の養子でもある比企能員は乳兄弟に当たり、また安達盛長という人物は比企尼の実の長女を正妻に迎えた縁で御家人になっています。源頼朝には複数の乳母が付けられていたため、比企尼かどうかはわからないのですが、三善康信という御家人は頼朝の乳母の妹が母親という、相当に薄い縁を辿って御家人となり幕府創立に貢献しています。ここで挙げた3人は後に「鎌倉殿の13人」として十三人の合議制に名を連ねているため、乳母絡みで御家人となった全員が政策決定に関与できる重要な役割を持っていたことになります。

世界中に同様の文化があります

乳母という子供の成育を助ける役割は世界各国にあったようで、中国など東アジア圏だけでなく、イスラム教圏やヨーロッパの歴史にも登場しています。特にイスラム教圏では乳兄弟という関係が非常に重要視されており、実際の兄弟と同じかそれ以上という扱いになっています。そのためイスラム法という宗教上の法律では、血の繋がりは一切なくとも乳兄弟同士の結婚が禁じられていたりします。宗教上の法律のため国の法律とは異なってはいるものの、乳兄弟という関係がいかに重要視されていたかが窺えます。

イスラム教の伝承では「グール」という人の形をした悪魔が存在しており、このグールは体の色や姿形を変えながら人や死体を食べてしまうとされています。グールの女性も自身の子供を母乳で育てるらしいのですが、なぜか人間の子供にも授乳するケースがあるらしく、グールの母乳を吸った子供同士は乳兄弟になり仲間になれるという、よくわからない設定があるようです。あちこちのゲームや漫画に登場するグールですが、仲間になるための方法なんてそれほど欲しくないですよね。

グールのイラスト
こちらがグール・絶対に仲間になりたくないです
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